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第42話 不法侵入

last update Last Updated: 2025-04-17 17:45:20

 深夜、俺とバルトは王城の門のほど近くに隠れていた。

 月は細くて、しかも雲がかかっている。絶好の侵入日和(?)だった。

「なあ、本当に忍び込むのか?」

 俺のヒソヒソ声にバルトは笑ってみせる。

「怖気づいたのかい? 盗賊ギルドの一員ともあろう者が、情けない」

 そりゃあ怖気づくだろ。

 今から天下のパルティア王城に不法侵入するんだぞ。

 たかが脱税でカルマががっくり下がる国だ。

 王様の家である王城に侵入なんかした日には、その場で死刑になってもおかしくない。

 けれどバルトは俺の言葉を意に介さず、さっさと進み始めた。

 鈎爪つきのロープを取り出して投擲。王城の城壁に取り付いた。

 素早い身のこなしでするすると登っていく。

 俺も続いてロープを掴んだ。

 バルトほどではないが、まあまあスムーズに登れたと思う。

「ユウはまだまだだね。軽業スキルをもっと鍛えないと」

「分かってるよ」

「ギルドに戻ったら特訓部屋を貸してあげよう。四方から矢が飛び出してくる、からくり部屋だ。矢を避け続ける修行ができるよ」

「お断りします」

 なにそのバトル少年漫画の修行シーンみたいなやつ。

 命の危険があるじゃん。俺はそこまでしたくないよ。

 そんな無駄口を叩きながら、俺とバルトは城壁から飛び降りた。

 植え込みや物陰に隠れながら進む。

「騎士団長がいる場所、分かってるのか?」

「目星はついているよ」

 なんとも頼もしいことだ。

 巡回中の衛兵の目をかいくぐりながら、俺たちは進んだ。

 王城の中心地に近づくほど、衛兵の数が増えてくる。

 と。

 木の陰に隠れた俺は、うっかり枝を踏んでしまった。パキリ、と意外に大きな音がする。

「何者だ!」

 近くにいた衛兵の一人が槍を構えた。

 ど、どうしよう! 俺は焦りまくりながら、とっさに、

「に、にゃぁ~」

 猫の鳴き真似をしてみた。

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     そうして向かった奴隷市場は、相変わらず胸くそ悪い場所だった。 やっぱり俺は奴隷制が嫌いだよ。 だいたい、どうして人間を道具としてお金で売買するのが許されるのか。 この世界、この国は理不尽が多いが、奴隷制度はその最たるものだと思う。 鎖に繋がれ、手かせをはめられた奴隷たちが狭い檻に押し込められている。 向こうではオークションをやっているらしく、台の上に立った奴隷たちが自分の名前と特技を書いた札を持っていた。 オークションを後ろの方から見ていたら、奴隷商人に話しかけられた。 愛想のいい笑顔を浮かべているが、同時に警戒心も見て取れる。 エリーゼを買ったのはならず者の町だった。 あそこじゃ盗賊ギルドのバルトが付き添いに来てくれたおかげで、待遇が良かった。 俺はここじゃ見慣れない顔だろうからな。「お客さん、見ない顔ですね。今日はどんな商品をお探しで?」 人間を商品と言ってはばからない。俺はイラッとしたが表には出さずに言った。「生産スキルが得意な人を探している。戦闘はできなくてかまわない」「それでしたら……」 奴隷商人はオークションから離れて、建物の一つに俺たちを招き入れた。 何人かの奴隷が引き出されてくる。 比較的若い人からお年寄りまで、さまざまだった。 そうして紹介された奴隷は確かに生産スキルを持っていた。 いつぞやのならず者の町の奴隷商人よりも優秀だな。あいつ話聞いてなかったからな。「エリーゼ。どの人がいいと思う?」 エリーゼに聞くと、その場にいた全員が意外そうな顔をした。 え、なに?「お客様はわざわざ奴隷に意見を聞くのですか。これはお優しい」 奴隷商人が嫌味な口調で言う。 そういうことかよ。俺は言い返した。「これから買う奴隷は彼女の仕事仲間になるんだ。相性も大事だろ」 本当は奴隷だって人間だ、お金で売り買いするなど間違っていると言いた

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     おっさんの言葉に俺は頭を巡らせた。 店を出す場所はよく考える必要がある。  まず、町の中はあまり良くない。すでに別の店があって競合してしまうから。 既にある店のほうが経営や仕入れのノウハウが豊富だろう。固定客もいるだろうし。 素人の俺がいきなり参入しても不利になってしまうと思う。 じゃあ店を出すなら町の外か。  街道沿いで人の多い場所や、ダンジョンがよく生まれる地域で冒険者相手に商売するのが良さそうだ。 もちろん、いい場所は既に店が出ている。だが現役冒険者である俺の視点から見れば、まだまだ穴場があるはずだ。「分かった。ありがとう」「おうよ。店をやるのか?」「まだ計画段階だけどね」 そんな話をして、俺は冒険者ギルドを出た。「どうでしたか?」 外で待機していたエリーゼが尋ねてくる。「王都で出店の許可をもらえるんだってさ。場所を考えながら王都まで行こうか」 王都にはこの国で一番大きな奴隷市場もある。人材の調達はそこですればいい。  この一年で配達やダンジョン探しをしてあちこち歩き回ったおかげで、この国の地理はだいたい把握している。  店を出すのにいい場所も、いくつか目星がついていた。 王都までの道すがら、手頃なダンジョンがあったのでいくつか攻略した。  寄り道をしたせいで少し時間を食ってしまい、王都に到着する頃には季節は初夏になっていた。 せっかくここまで来たので、直近の税金を納めておく。もう脱税騒ぎはごめんだからな。  今度はヴァリスに呼び出されることもない。  お役所に行って新規出店について案内を聞いた。  担当のお兄さんが言う。「店を出すには許可証が必要です。こちらの申請用紙に記入の上、お金を添付してください。金貨三枚です」「なかなかお高いですね」 金貨一枚あれば、一人暮

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第52話 生産スキル

    「違う違う、エリーゼが嫌いという意味じゃない! 奴隷制度そのものに反対ってことだよ。だってお金で人を売ったり買ったりするなんて間違っている。エリーゼだって子供の頃は開拓村の自由民だったんだよな。それが奴隷になってしまって、嫌だっただろう」「わたしが奴隷になったのは、親に売られたからです。わたしを売ったお金で家族は冬を生き延びました。仕方ないことです」 いきなりヘビィな話が飛び出した。 分かってはいたが、この世界で日本の常識も良心も通じやしない。 けれど割り切るのは嫌なんだ。 前世の話をして理解してもらえるわけはないので、説明に苦労した。 けれどエリーゼを嫌っているわけではないこと、奴隷制度そのものに疑問を持っていることは分かってくれたらしい。「ご主人様は優しいですね」 と微笑まれてしまった。「けど、この国に奴隷制があるのはどうしようもないですよ。だったら奴隷を買って、わたしみたいに優しくしてあげて、生きる力を育ててあげてください」 この国の人間で今なお奴隷身分の彼女の言葉には、説得力がある。「……分かった。ただ、養う人数が増えればお金や食べ物の問題も出る。少し考えさせてくれ」「はい」 エリーゼの言葉で、俺は業務拡大(?)の決心をした。 今の俺の実力は、上級冒険者といって差し支えない。 中堅クラスのダンジョン攻略は問題なく進めて、ボスから得た装備品も充実した。 クマ吾郎といっしょに効率よく戦闘を繰り返したため、短期間で強くなれたのだ。 当然実入りも良くなって、貯金はかなり増えた。 だが、何人もの奴隷を買って彼らを養うとなったらどうだろう。 生活費を稼ぐためにカツカツになってしまっては意味がない。 奴隷の皆さんにしっかり働いてもらって、さらに利益を上げなければ。 そのためにはどんな人材を買って、どんな仕事を割り当てるか熟考の必要があ

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